飲食店を開業する際、物件を借りるだけではなく、保健所による営業許可や、消防署への届出など、さまざまな手続きが必要です。また飲食業を営む上で必要な資格もあります。具体的にどのような手続きや資格が必要かを確認していきましょう。
飲食店を開業する上で必要な手続き
飲食店を開業するには大きく、保健所による営業許可と、消防署への届出が必要です。また株式会社など法人を立ち上げる場合は法人登録、個人で行う場合は個人事業主としての開業届が必要となります。
保健所による営業許可
飲食店を開業するには食品衛生法に基づく営業許可が必要となります。飲食店の場合は飲食店営業許可を取得しますが、例えば店内での飲食物の提供だけでなく、パンの販売をしたい場合は菓子製造業許可、冷凍した惣菜を販売したい場合は冷凍食品製造業許可など、提供・販売するものによって必要な営業許可が複数になる場合があります。
1. 事前相談・計画確認
営業許可を申請する前に、まずは保健所でどのような事業を検討しているか、そのために必要な営業許可の種類は何かを確認しましょう。その上で、許可を受けるために必要な設備・建物基準を確認しましょう。
必要な設備・建物の基準に基づいて、出店を検討している物件が基準に合致しているかを確認するか、あるいは基準に合致するような内装・設備工事を計画します。例えば、飲食店の厨房には、食材を扱うための手洗い場の設置が義務付けられており、これに対応した設備が必要です。また、換気設備についても保健所の基準に従って設置しなければなりません。このような基準に詳しい厨房機器業者や内装工事業者に相談すれば、具体的な設置場所や工事内容についてのアドバイスを受けることができます。
ただし、実際の工事を行う前に、必ず図面の段階で保健所に確認を行うことが重要です。基準が変更されていたり、業者の誤解があった場合、工事後に許可申請を行った際に基準に合致しておらず、再工事が必要となることが多くあるためです。例えば、ガス配管の位置が基準に合わず、再度工事をする必要が発生することもあります。
物件によっては建物自体の工事が必要なケースや、ガス管、給排水管、電気設備などの交換工事が必要なケースもありますので、物件契約前に専門業者と物件の確認を行い、希望の業態での飲食店営業が可能かどうかを判断することが望ましいです。
また、オーナーへの確認も必須です。業態によっては、騒音や匂い、営業時間などが原因で近隣住民とのトラブルリスクが高まり、それを理由にオーナーから契約を断られる可能性もあります。特に夜遅くまで営業する飲食店や、アルコールを提供する店舗の場合、近隣住民からの苦情リスクが高いため、事前にオーナーと条件を確認することが重要です。
2. 講習の受講
飲食店の営業には食品衛生責任者の設置が必要となります。栄養士、調理師、製菓衛生師等の免許を保有している人であれば食品衛生責任者となることができます。該当者がいない場合は食品衛生責任者資格者養成講習会を受講・修了することで、資格を取得できます。
この講習会は1日で修了するため取得は比較的容易ですが、実施日が決められており事前の申込みが必要です。地域によっては実施回数が少なく、受講枠がすぐに埋まってしまう場合もあります。営業開始希望日に間に合わず営業開始日が延期になった、というケースもよくあるので、事前に取得しておきましょう。
3. 営業許可申請書の提出
保健所で指定された様式の営業許可申請書を作成し、保健所に提出します。申請には次のような書類が必要です。申請は厚生労働省の「食品衛生申請等システム」を利用して行います。このシステムを使うには、「GビズID」が必要です。「GビズID」は、食品衛生申請等システムの他に、各種補助金の申請などにも利用するため、事前に申請しておくとよいでしょう。
営業許可申請には以下の書類が必要です。 1. 営業許可申請書 2. 営業設備の大要・配置図(2通) 3. 許可申請手数料 4. 登記事項証明書(法人の場合のみ) 5. 水質検査成績書(貯水槽使用水、井戸水使用の場合のみ) 6. 食品衛生責任者の資格を証明するもの(食品衛生責任者手帳等)
営業許可申請には以下の書類が必要です。
- 営業許可申請書
- 営業設備の大要・配置図(2通)
- 許可申請手数料
- 登記事項証明書(法人の場合のみ)
- 水質検査成績書(貯水槽使用水、井戸水使用の場合のみ)
- 食品衛生責任者の資格を証明するもの(食品衛生責任者手帳等)
営業許可申請書は、業態に合わせて必要な業種のものを用意します。ひとつの厨房で複数の許可を取得することも可能です。例えば、昼間はカフェ営業、夜は居酒屋として営業する「二毛作」方式や、異なるブランドの料理を同じ厨房で提供するゴーストレストラン(ゴーストキッチン)などの形態が該当します。しかし、このような場合には、保健所から操業時間を区分するなどの条件が付されることがあるので、どのような内容で申請するかについては、事前に保健所で確認しておきましょう。
4. 施設の確認・設備検査
保健所の職員が実際に店舗に訪問し、衛生基準を満たしているかどうかを確認します。施設の確認では、厨房の清掃状況、食材の保管方法、手洗いや排水設備などがチェックされます。つまり施設の確認・設備審査を行う段階では、店舗工事や厨房機器の搬入が終わり、電気、ガス、水道が開通している必要があります。
5. 営業許可証の交付
施設確認と設備検査を無事に通過した後、営業許可証が交付されます。これにより、飲食店の営業が可能になります。施設確認から最短で1週間程度かかるため、店舗工事完了後すぐに営業できるわけではないことに注意が必要です。
営業許可証が発行されたら保健所に許可証を取りに行き、店舗に掲示する義務があります。食品衛生責任者の掲示と合わせて行うことで正式に営業を開始することができます。
消防署への届出
飲食店を開業する際に、消防署に必ず提出しなければならない書類に「防火対象物使用開始届出書」と「防火対象物工事等計画届出書」があります。これらは、市町村の火災予防条例等で義務付けられています。消防署はこれらの書類をもとに、火災が発生した場合でも安全に避難できるよう、建物の構造や設備を確認します。
防火対象物使用開始届出書
消防署が防火対策の状況を確認し、必要な指導を行うための書類です。所轄の消防署から専用の様式書類を受取り、必要事項を記載して提出します。記載方法については様式とともに記載例を受け取ることができます。また必要な添付書類についても様式を受け取る際に確認しておくと手間が省けます。
主な記載事項は以下のとおりです。
- 物件の概要
- 事業所の概要
- 工事種別
- 使用開始日
- 設計者、施工者
- 添付書類(平面図、立面図、詳細図など)
特に添付書類は不動産会社、工事会社などから受け取る必要があります。また届出は使用開始日の7日前までに行う必要があるため、余裕を持って届出られるように準備しましょう。
防火対象物工事等計画届出書
建物の新築や改修、内装工事などを行う場合、「防火対象物工事等計画届出書」を提出する必要があります。工事が防災上適切に行われているかを、消防署が確認するための書類です。こちらも様式は所轄の消防署で入手できます。
主な記載事項は以下のとおりです。
- 物件の概要
- 事務所の概要
- 添付書類(物件の概要表、平面図、立面図、詳細図、室内仕上表、建具表など)
届出は、工事開始の7日前までに行う必要があるため、こちらも工事会社と連携を取りながら進めましょう。工事会社によっては会社側で提出を代行してくれる場合もあります。
火を使用する設備等の設置届出書
火を使う設備のうち指定された設備を使う場合、「火を使用する設備等の設置届出書」の提出が必要となります。具体的には、
- 熱風炉
- 出力120kW以上の厨房機器
- 温風暖房機
- 出力70kW以上の給湯湯沸設備
- ボイラー
などです。設置する設備が届出の対象かどうかは厨房設備会社などに確認すると良いでしょう。
防火管理者選任届出書
建物全体の収容人数が30人以上の飲食店を開業する場合、「防火管理者選任届出書」を提出する必要があります。30人以上という人数には従業員も含む点に注意が必要です。
防火管理者になるには、市区町村で行われる防火管理講習を受講する必要があります。講習は2日間行われます。講習日時は決められており事前の申込みが必要なため、防火管理者の設置が必要な場合は早めに計画を立てておく必要があります。
防火管理者選任届出書の主な記載事項は以下のとおりです。
- 防火対象物の概要
- 防火管理者の概要
- 添付書類(防火管理者の資格を証明する書類)
消防計画
防火管理者同様、建物の収容人数が30人以上の飲食店を開業する場合、消防計画を提出する必要があります。消防計画は決まった様式がありませんが、消防署に記載見本が用意されていることが多いので、それらを参考に作成します。
主な記載事項は以下のとおりです。
- 防火管理の目的
- 計画の範囲
- 管理権原者
- 防火管理者
- 自主検査の内容
- 消防訓練の計画
- 火災発生時の活動
- 防火管理についての消防機関との連絡
- 検査表
- 防火管理業務の委託に関する情報
- 建物の状況(防火設備等)
- 緊急連絡先
その他
消防設備の設置や、設置に伴う工事着工の際、「消防用設備等着工届出書」「消防用設備等設置届出書」の提出が必要です。これらは一般的には消防設備会社が工事着工前に所轄の消防署に提出します。
消防設備に関する注意事項
店舗に設置する消防設備、警報設備、避難設備は消防法に基づき、どのようなものを設置するべきか設置基準が定められています。この基準を満たさなければ建物使用許可が得られません。
消防設備で一般的なものは消火器です。以前は延べ面積150平米以上の飲食店に対しての設置義務でしたが、2019年10月1日の消防法改正により、すべての飲食店に設置が義務付けられました。
また誘導灯についても設置が必要です(一部例外あり)。このほか、スプリンクラー、自動火災報知機、漏電火災警報器、非常ベル・サイレン、避難器具など、物件の広さ、階数、収容人数、使用する機器などによって、基準が設けられています。
特に建物内での配線が必要な自動火災報知機などは、店舗内装工事のあとから設置となると、高額なコストが追加で必要となってしまいます。店舗物件を決める際、厨房設備等と合わせて消防設備についても計画を立て、あらかじめ消防署に確認することをおすすめします。 消防設備については定期的な点検と報告が義務付けられています。こうした作業も含めて消防設備に関する計画は、消防設備設置点検を行っている事業者に委託すると安心です。
法人設立、税務署への設立届出
保健所での営業許可、消防署への届出は、飲食店を行う上で必須となる手続きですが、この他にも飲食店を開業する上で覚えておきたい手続きがあります。主なものを見ていきましょう。
法人設立
法人(会社)を新たに立ち上げるには、法人設立に関する手続きが必要となります。法人設立には会社概要の決定、法人用の実印作成、定款作成と認証、出資金の払込み、登記申請書類の作成と法務局への申請が必要になります。
会社概要
会社概要として定めるべき事項は以下のとおりです。
- 社名
- 所在地
- 資本金
- 設立日
- 会計年度
- 事業目的
- 株主の構成
定款
会社のルールである定款を作成し公証役場で承認を受ける必要があります。定款には、記載がないと認証が受けられない「絶対的記載事項」のほか、記載しないと効力を発揮しない「相対的記載事項」と、記載は任意の「任意的記載事項」の3種類の情報があります。このうち絶対的記載事項は以下となります。
<絶対的記載事項>
- 商号
- 事業目的
- 出資
- 資本金額(出資財産額)
- 発起人の氏名と住所
- 発行可能株式総数(株式会社の場合)
法人の実印作成
設立登記を書類で行う場合、法人の実印作成と登録が必要となります。設立登記をオンラインで行う場合は実印は不要となりましたが、不動産の契約などで実印が必要となる場面は多いので、必ず作成しておきましょう。また銀行印、社判(角印)も合わせて作成することが一般的です。
資本金の払込
定款で定めた資本金額を発起人の個人口座に入金します。この資本金は、会社の登記が終わり金融機関の法人口座を開設した後にすぐ、法人口座に移します。
資本金は1円から設定が可能ですが、法人設立からまもなく様々な費用が必要です。そうした初期費用や運転資金等を考えて妥当な金額を設定しましょう。
登記申請
法人の登記を法務局に行います。登記する際に必要な書類は、法人の種別(株式会社、合同会社など)によっても異なります。一般的な株式会社設立登記に必要な書類は以下です。
<株式会社の登記に必要な書類>
- 設立登記申請書
- 定款
- 発起人の同意書
- 設立時取締役選任、設立時監査役選任及び本店所在場所決議書(定款に定めのない場合)
- 設立時代表取締役を選定したことを証する書面(定款に定めのない場合)
- 設立時取締役の就任承諾書
- 設立時代表取締役就任承諾書
- 設立時監査役の就任承諾書
- 払込があったことを証する書面
- 印鑑届出書
法人設立届出書(税務署)
法人登記が修了したら、税務署に法人設立届出書を2ヶ月以内に提出します。
また、税法上の諸制度を利用する場合、期日までに各種届出が必要です。必要な届出については顧問税理士・会計士に確認するとよいでしょう。特にインボイス制度における適格請求書発行事業者登録を受ける場合には登録申請書を早めに提出し、登録番号を発行してもらうことで、当初にかかる各種費用の請求・支払いに利用できます。
しかし法人設立から2年間は消費税免税事業者となるため、初年度からインボイス登録を行うかどうかは売上等から適切に判断したほうがよいでしょう。
保険、水光熱、インターネットなどの契約手続き
火災保険、賠償責任保険、休業保険など
飲食店に必要となる保険は主に、火災保険、賠償責任保険があります。飲食店は火を取り扱うため火災のリスクが高く、物件契約の際に火災保険への加入を所有者から求められるケースがほとんどです。保険の適用範囲は、建物への損害に加えて、設備、什器、商品、原材料なども補償の対象となるものを選んでおきましょう。
また、飲食店のようなお客様のいるビジネスの場合、たとえば食中毒、怪我ややけどなど、相手に損害を与えてしまう場合があります。こうした場合の備えとして賠償保険への加入も必須と言えます。近年は顧客原因のトラブルなども増えています。こうしたケースに法的に対応できるよう、法律相談費用や訴訟の際の弁護士費用の補償が受けられる特約の付与も検討をおすすめします。
火災や水害、水漏れ、盗難、食中毒などが発生した場合の営業停止処分など、思わぬ理由で店舗を休業せざるを得ないケースも考えられます。そのような際に休業日数に合わせて補償を受けられるのが休業保険です。こうしたケースに対応できる現金資産がない場合は加入を検討してもよいでしょう。
水道・ガス・電気・インターネット
営業開始に合わせて、水道、ガス、電気が使えるように手続きが必要です。
<水道>
市区町村に申請
<ガス・電気>
ガス会社、電力会社に申請
特にガスについては、使用するガス器具を設置した上で漏電などがないかを現地でガス会社の担当者が確認するため、工事や機器設置が完了したタイミングを見て申請が必要です。
電力については、電話やインターネットでの申請が可能ですが、たとえば契約アンペアの変更を行う場合などは機器交換が必要となりますので、早めの申請が必要です。
電力自由化を受けて、電力会社に限らずさまざまな企業が電力サービスを提供しています。ガス会社による一体提供や、インターネット事業者による電力プランとのセットなどもあるので、サービス内容を比較して検討しましょう。
<固定電話>
店舗の予約、問い合わせなどを受けるために固定電話を敷設する場合は加入申請を行います。電話はインターネットと同時に加入するプランなどもあります。問い合わせ対応のみであれば、最近は携帯電話で対応する店舗も多くありますが、たとえば食材の発注などでFAXを利用するケースもまだまだ多いため、そうした場合は固定電話の加入が望ましいです。
<インターネット>
多くの飲食店でインターネットを使用した設備などを使用するため、インターネットの敷設もあらかじめ計画しておきましょう。光ケーブルなどの配線がすでに店舗まで来ている場合は開通もスムーズですが、ケーブルを新設する場合、申込みから1〜2ヶ月程度かかる場合もあります。
<各種決済サービス・予約サービスなど>
支払いに現金以外を利用できるようにする場合、各種決済サービスへの登録が必要となります。最近は支払い方法も、クレジットカード、電子マネー、QR決済など多様化しており、それぞれのサービス事業者に加入するのではなく、多様な決済方法に対応した決済サービスが各社から提供されています。機材の無償貸与や、レジ機能が一体となったサービスなどさまざまあるので、比較の上で選択するとよいでしょう。なお、多くの決済サービスが、申込時に飲食店営業許可を受けていることが条件となっており、申込後、審査通過まで概ね1ヶ月ほどかかるため、開店すぐには使用できないことに注意が必要です。
税理士・会計士、弁護士など顧問契約、団体への加入
税理士・会計士、弁護士、社会保険労務士
飲食店は仕入れや支払い、日々の売上管理など、お金の出入りが細かくかつ複雑な業種です。そのため日々の経理業務や管理については、開業時にどのように行うかを検討しておく必要があります。
経理については、顧問の税理士・会計士に依頼し、月次で状況確認とアドバイス、決算・確定申告時の作業を依頼すると安心です。特に日々の経理業務で使用する会計ソフトは顧問税理士が指定するものを利用するのがスムーズです。
従業員がいる場合は、社会保険労務士事務所との顧問契約を行い、雇用手続きや給与支払いなどについてサポートを受けられるとよいでしょう。
弁護士については、契約やトラブル時の対応などの際に法務相談や弁護を依頼することになります。飲食店では契約業務が頻出することはあまりないため、顧問弁護士を依頼するケースは多くはありませんが、いざというときにどこに相談すればよいかを決めておけると安心です。
飲食業生活衛生同業組合、町内会、地域の商店組合など
飲食店が加入する組合で代表的なものは各都道府県に設立された飲食業生活衛生同業組合です。また社交飲食生活衛生組合や喫茶飲食生活衛生同業組合など、業種に応じた組合が組織されています。加入する組合にもよりますが、たとえば融資相談や特別金利の適用、音楽著作物使用料契約の特典、経営相談・法律相談の対応、研修会などの特典があります。
各支部でのイベント実施など地域での取り組みへの参加もできます。地域の商店組合や組合への参加により、たとえば事業ゴミの収集を一括で受けられたり、地域のお祭り、イベントへの参加による集客などが期待できます。組合加入には費用負担や、活動に関わる時間的な負担が発生しますが、地域活動などに参加することで、困ったときに近隣からの協力を得られるメリットは大きいものです。
まとめ
飲食店の開業にむけて、必要な手続きについてはしっかりと備える必要があります。開業後は店舗運営で多忙となるため、あらかじめどのような手続きが発生するかを想定し、準備をしておくと安心です。